■日帰りの山旅に初めて参加する人には「飲み物はペットボトル2本」ということにしています。いわれた人が、どんなものをどんなふうに持ってくるか? そこに新しい発見があるかもしれないという意味で、こちら側に興味があるのです。私は非常用の水を常備していますから、量が足りなくなっても構わないのです。ふだんの生活で無意識に摂取している水分を、休憩ごとに、見えるかたちで、意識的に飲んでいくという「水分補給」の体感にこそ価値があるのです。

■じつは私はかなり昔に「昼食休憩」をやめています。5分休憩のときにかならず水を口に含んでもらいます。飲みたければ飲めばいいし、口を湿らせただけでもいいのです。10分休憩ではエネルギー補給と水分補給をしてもらい、それを数回繰り返すことで「昼食休憩」に変えています。

■初めての山旅でそういう、日常の水分補給とちがう水との接し方が体験できればラッキーだと思うのです。そのとき、周囲のみなさんの水補給のしかたを観察をするような人はなかなかの成長株というべきです。じつはベテランになると、水をガツガツと飲んで、バテるというような姿を見せることはあまりないのです。

■登山者の間では「強い人は水分をとらない」と考える人が多いのですが、それこそけっこう浅はかな観察かもしれません。無駄なパワーを使わずに、水分消費を抑えられるという熟練のほかに、前夜からの水分摂取、朝食での水分摂取とで、出発時に体内に十分な水分を蓄えているというケースが多いのです。超初心者は長時間の登山を心配して、別の心配ごとのために、体内をカラカラにしたまま歩き出しているのかもしれません。